オンラインの巨大なマーケットプレイス、アリババ(阿里巴巴)は初のスマートストアをオープンさせた。そしてそこでは、アパレルブランドのゲス(Guess)が自ら小売業界のモルモットに扮して実験を行っている。
オンラインの巨大なマーケットプレイス、アリババ(阿里巴巴)は初のスマートストアをオープンさせた。そしてそこでは、アパレルブランドのゲス(Guess)が自ら小売業界のモルモットに扮して実験を行っている。
香港に新しくできたゲスの店舗では、タオバオ(淘宝)やTモール(天猫)など、eコマースのマーケットサイトでの購入情報をもとにパーソナライズしたデータを店内在庫と結びつける「ファッションAI」(FashionAI)の技術が導入されている。入店した顧客は全員、タオバオのモバイルIDでチェックインする。試着した商品や「あとで買う」に登録した商品、そして購入した商品は記録され、その行動にもとづいたおすすめの商品がオンラインで表示される、というしくみだ。「スマートミラー」や「スマート試着室」が、個々の顧客がどのような洋服を試着しているかを見極め、対応できるように、店舗内の各商品にはRFIDタグが付けられている。タオバオのモバイルのバーチャルキオスクは、店頭に在庫のないサイズや色の商品も表示してくれる。そして、モバイルアプリでスキャンすれば会計は完了だ。
この店舗はアリババが推進する「新しい小売」戦略の一部だ。そこには、昔ながらの小売業を再構築し、果てしなく続く通路やモバイルチェックイン、スマートミラー、カスタマイズされたキオスク、そして物流センターとしての機能を兼ねた店舗によって、店内での体験をデジタル化する狙いがある。これまでにアリババがこのプロジェクトに投資した総額は、80億ドル(約8866億円)近くにのぼる。
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ゲスの中国への期待
ゲスにとって、このファッションAIの店舗は、アジア圏でのブランド認知の拡大、および、アリババとの連携強化の一貫で作られたものだ。この地域はゲスにとって急成長している市場である。会計年度での2019年第一四半期のアジア圏における収益は32%増、そしてeコマースの売り上げも22%増加している。ゲスは地域ごとに分けた収益を報告していないものの、四半期の全体の収益は、15%増の5億2100万ドル(約578億円)であった。このブランドは、アリババとの強固な関係を維持し、先行技術への投資も継続して行う予定だ。これにより実店舗への投資も増えた。ゲスは、直近の四半期だけでもアジア圏で8つの直営店舗をオープンしたが、これらすべての店舗でファッションAIの技術を導入する予定だという。ゲスの中華圏市場部門のCEOを務めるホセ・ブランコ氏によると、最初にオープンした店舗の立ち上げにかかった期間は、わずか5カ月だったという。
「これは我々にとって唯一無二の機会だ。アリババと協力して、このような体験重視の実店舗を展開し、顧客のインサイトを得ることによって、我々のeコマースのビジネスは、彼らのTモールや我々の実店舗とともに発展するだろう」と、ゲスのCEOのビクター・ヘレロ氏は2018年6月、投資家向けの収支報告で語った。「数多くの新しい技術を実店舗に導入するつもりだ。そして、(アリババとの)連携は非常に強力だ。中国には、我々の未来にとって大きなポテンシャルがあり、今後もそこでの収益を増やすための企業努力を続けていく予定だ」。
アリババやJD.comなどの同業者は、世界的に注目が集まる中国の高級ファッション事情の恩恵にあずかっている。国内産業が国際市場の勢いを上回り、2020年には、2016年の4930億ドル(約54兆円)から5870億ドル(約65兆円)に達すると予想されている。マーケティングのコンサルタントや流通ロジスティクスのサービス、そして「ラグジュアリー・パビリオン」ともいうべき大口の顧客がショッピングできる場所を独自に提供することで、アリババは対Amazon戦略を推し進めており、「ブランド同盟」としてのポジションを確かなものとし、中国市場への玄関口としての役割を担おうとしている。
先鋭化するアリババ
Amazonと同様に、アリババのファッション業界に対する興味は確固たるものになった。アリババグループのバイスプレジデント、庄卓然(Zhang Zhuoran)氏によると、ファッションAIの開発はここ7年間続いており、ゲスとのパートナーシップを超えた展開も可能だという。このシステムのアルゴリズムは、これまでにタオバオやTモールで販売されてきた、さまざまなブランドの何百万という洋服やアクセサリーの情報を入力処理しており、生地や色、サイズやフィット感などの商品の特徴を認識したり、トレンドやライフサイクルを予測したりする能力を日々高めている。最終的な目標は、「こちらもおすすめ」という単一製品の枠を超え、身に付けるものすべてのコーディネイトを多彩に組み合わせて提案できるようなサービスをオンラインでもファッションAIの店舗でも利用できるようにすることだ。アリババによると、このアルゴリズムは機械学習やコンピュータービジョンを駆使し、50万着以上もの洋服の組み合わせが可能だという。
このアルゴリズムはブランドに特化したものではない。たとえば、ある買い物客がゲスの店舗で商品を試着してカートに入れたものの、スマート試着室ですすめられたゲスの商品をひとつも試着しなかった場合、タオバオのモバイルアプリは、タオバオやTモールと提携している別のブランドの商品を勧めてくるのだ。アリババは個々のブランドとの強力な連携を大切にしているが、同社が構築しつつある技術の狙いはデータの収集と、肥大化したマーケットプレイスをそれぞれの顧客向けにパーソナライズすることにある。
卓然氏は声明の中でこう語る。「これは大きな一歩だ。顧客にとっては、専任のスタイリストがいるようなものだ」。
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